ガヴリーロフ(p)／バッハ：ゴルトベルク変奏曲 BWV.988

バッハ
ゴルトベルク変奏曲 BWV.988

アンドレイ・ガヴリーロフ（ピアノ）
録音：1992年（セッション）

バッハの後援者であった伯爵に仕えていたクラヴィーア奏者のゴルトベルクが、伯爵の不眠を慰める目的で弾くために作曲されたと伝えられる『ゴルトベルク変奏曲』。全体はアリアと30の変奏から成り、形式の多彩さや高度な対位法的作曲技法など、当時のクラヴィーア技法の精髄を集成した作品です。ロシア出身、18歳のときにチャイコフスキー・コンクールで優勝した経歴を持つガヴリーロフが全曲を慈しむように演奏しています。

もちろんこの曲の基本となるのは、グールドの新旧両盤ですが、たいへんな名曲なので、聴き比べて様々な演奏で楽しみたいです。ガヴリーロフは現代ピアノの機能と性能をフルに解放し、それでいてバッハの様式に合うように音をコントロールするという離れ業を聴かせてくれます。バッハ演奏の禁じ手を駆使してバッハを成功させているのは、超絶技巧を持って初めて可能になる世界です。急速なテンポの部分も明快で混濁せず、爽快な響き、リヒテルがほめたとの話にも十分納得できる名演です。

この録音は、ノーカットであるにもかかわらずCD１枚に見事に収まっている。主題のアリアはそれほど速いわけではないが、第１変奏からすぐに超絶技巧の世界に入り、全体を颯爽と弾きこなす。特に２段鍵盤用に書かれた変奏では右手と左手がかなり近い位置を弾くことが度々あるが、そうしたところも難なくこなし、見事な演奏を聴かせる。ピアノのタッチを調律で軽くすることはできるが、スピードを保ったままミスを無くすのはかなり難しい。単に速いだけでなく、時間をかけるべきところはしっかりと捉えている。また表現も薄っぺらではなく、むしろ個々の音の強弱表現を微妙に変えているので、彩り豊かな演奏に仕上がっている。

ガヴリーロフのゴールドベルグはタッチが柔らかくて美しく聴いていて気持ちがいい。超絶技巧で有名なガブリーロフだが、これはピアノの性能をフルに使って、自由で大きな音楽に仕上げている。細かなところまで神経が行き届いていて素晴らしい。特に25変奏の美しさは絶品です。心に沁みます。　

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